試合で学ぶこと

~少年部の試合出場の意義を考える~(指導者、保護者の役割) 極真空手の魅力の一つに、試合が充実しているということがあげられる。 現在、幼年・少年・中学・女子・壮年・学生・一般と多くのカテゴリーがあり、あらゆる世代が国際空手道連盟ルールの下、試合に挑戦できることができる。そして、支部内交流試合のような小規模なものから世界大会のようなレベルの高い試合が用意されており、レベルに応じて参加できるという恵まれた環境にある。 このように、試合が充実している反面、試合に勝つことのみに価値観を見出すことにより、試合という場が残念ながら、子供たちの健やかな成長の妨げになるケースも見受けられる。例えば、保護者が子供の勝利に拘るあまり、負けて戻ってきた子供を罵倒し、叩いたりするといった場面を地方大会で目にしたり、子供たちの発言の中で「Aは2回戦だったけど、僕は3回戦まで進んだから、僕が強いんだ」と、他人と比較し優位に立つ手段の一つになってしまったり、試合に勝つために、過剰な稽古を行い故障したり、試合に勝つことのみ頑張ってきた子が、思春期に入り自我が芽生え、突然空手に興味を無くす、いわゆる「燃えつき症候群」になり道場から、去っていったり・・・・・試合に関する残念な状況をたびたび経験してきた。 そこで今回は、支部として、特に少年部における試合とは?試合に出場する目的とは?試合に出場する様々な意義について。そして、試合が子供たちにとって良い成長の場になるために、我々指導者、そして、保護者たちがどのような姿勢であることが望ましいか考えてみたい。
■試合に出場するということ
極真空手の試合は互いに、本気で直接たたきあう。稽古のスパーリングで痛みを体験している子供たちにとって、試合で本気で叩き合うということは、かなりストレスがかかる事であり、勇気が必要な事。試合に出場する子供たち(特に初出場や、スパーリングを怖がっていた子供)には「よく出場を決めたね」と勇気を称える姿勢でありたい。 そして、試合当日は、大勢の観客の前で二人きりで叩き合う。試合を経験した人にはわかると思うが、緊張はかなりのもの。例え、1回戦で負けても「1回戦なんかで負けて」ではなく「よく最後まで戦ったね」と評価してあげてから技術的なこと、精神的なことのアドバイスを送っていきたい。
■目標を設定し、目標に向けて努力することが大切
試合に出場を決めたら、その試合で具体的な目標を決めてもらう。「最低1回戦は勝ちたい」「前回準優勝だったので優勝したい」「絶対に下がらないで戦いたい」等。試合での学びは、試合の日だけではない。具体的な目標を決めて、その目標を達成するためにはどうしたらよいか?その体験をする良い機会である。指導者、保護者は目標設定の手伝い、達成するためのアドバイザーでありたい。決して押し付けではなく、子供自身が自ら考える癖をつけるように導くのが大切なのではないか。
■「勝ち」「負け」の意味
大山総裁も「勝って奢らず、負けて落ち込まず」と大会講評でおっしゃられていたが、勝つことで天狗になったり、負けることで自分を見下したりしないようにしたい。そもそも「勝ち」や「負け」そのものには意味は全くない。 例えばおなじ「優勝」した人でも A 「優勝したけどさらに上の試合に向けて頑張る」 B 「優勝した僕は一番強いんだ」 C 「優勝したけどできないこともあったからもっと頑張ろう」 「負け」た人でも A 「もうだめだ、才能ないからやめてしまおう」 B 「悔しい。次は負けないように絶対頑張る」 C 「別にどうでもいいや」 同じ勝ち負けでも、その意味のつけ方は人それぞれで、無数にある。 指導者、保護者の役割は、試合結果に前向きな意味がつけられるような、言葉かけをしてあげることだと思う。
■試合をするのは本人
よく試合会場で「何で言うとおりに動かなかったんだ」「あんな動きをするなと言ったろう」とセコンドが言っているのを聞くことがある。戦うのは試合に出場する選手で、技の選択も本人がする。たとえ負けたとしても、「あのときに横に回れたらよかった」「下段受けたほうが良かったね」という客観的なアドバイスを送りたい。選手は指導者、保護者のロボットではないということ。
■すべては自分の責任
負けた選手が一番しがちなことは、責任転嫁である。「あの判定はおかしい」「相手は反則してたのに」「負けたのは体調が悪かったから」「優勝した選手より本当は俺のほうが強い」等。誰でも一度は思うことだろう。しかし、負けたのは明らかに自分が弱いから。そこから目を背けると成長できない。幸い極真空手は非常にわかりやすい。 顔を蹴られたなら上段のガードが悪い。最後に疲れて動けなくなったら、スタミナ稽古が足りない等。原因がわかりやすいから、次の成長につながりやすい。指導者、保護者は他人のせいにせず、稽古し足りないところがあるから負けた、逆に言えばそこを直せば強く慣れるということを気付かせてあげる存在でありたい。
■優勝は素晴らしい、でもそこが終点ではない。
大会で優勝する。これは、本当に素晴らしいこと。手放しでそれまでの子供の努力、試合での頑張りをほめてあげたい。ただし、それで終わりにせず次の目標を明確に与えてあげたい。例えば関東大会で優勝したら「優勝おめでとう!!すごくうれしいよ!次は全日本だね。」というと、心に全日本に向けての心構えができ、目標設定の下準備ができる。そして、優勝という事実よりそれに向けて努力した事(「毎日走った甲斐があったね」「~先輩にスパーリングでやられたけど、それでも毎日稽古つけてもらった結果だね」等)を褒めてあげたい。
■感謝に学ぶ
試合に出た選手には、審判がいて、会場を設営する人がいて、応援する仲間がいて、教えてくれた先生・先輩がいたから試合ができたんだという感謝の気持ちを持たせたい。勝ち負け以外のことを学ぶのも大切。
■他人と比べない
「~君は3回戦までいったのにうちの子は・・・」「~君より上にいけたので良かったです」と人と比較してしまうこと。試合で見なくてはならないのは、他人との比較ではなく、本人自身の成長である。「この前は前に出られなかったけど、前に出ることができたね」「負けたけど、この間より技が出ていて良かった」と以前の自分と比較するのが良いと思う。
■指導者、保護者の姿勢を見せる
試合は、選手の応援で相手をけなす発言をしたり、開会式で大声で話していたりする子供がいたら「式は静かにしていなくてはいけないんだよ」「相手を馬鹿にしたり、けなす応援をしてはいけないよ」などと、色々なことを教えられるとても良い「場」である。そして我々大人も、応援マナーを守り、常に子供たちの手本でありたい。100の言葉よりも身近な我々の姿勢が一番の教科書だから。